ネットやSNSでは、「日本がアメリカに80兆円も投資して、その利益の90%をアメリカが持ってくなんてとんでもない!」といった投稿が拡散されていますが、果たして本当にそうなのでしょうか?
結論から言うと、全くそんな不平等な契約ではなく、真っ当な契約内容です。むしろ日本にメリットの大きい内容とも言えます。
今回の「最大5500億ドル(約80兆円)」の投資の枠組みは「出資」「融資」「融資保証」の3つです。
その内訳を解説する前に「出資」「融資」「融資保証」について簡単に説明しておきます。
- 出資…企業やプロジェクトに対して資金を提供し、その対価として株式や持分などの権利を取得すること
- 融資…資金を貸し付けることで、借り手が元本と利息を返済する契約
- 融資保証…融資を受けた借り手が返済できなくなった場合に、第三者が代わりに返済を保証する契約
では、今回話題になった最大5500億ドル(約80兆円)の投資の内訳を見ていきましょう。
最大5500億ドル(約80兆円)の投資の内訳
全体の 1~2%(約1.6兆円)であり、利益配分は9:1でアメリカが9割を得る。
全体の98~99%(約78.4兆円)貸付または保証であり、返済される前提の資金供与。
つまり「日本が80兆円も投資して、それで得た利益の90%をアメリカが得るとんでも契約だ!」というのは大きな間違いで、正しくは「80兆円の投資の内、出資は1.6兆円でその利益配分が9:1でアメリカが90%の利益を得る」ということです。
残りの78.4兆円については日本にとって利益が大きいわけです。
詳細は次の図の通りです。
トランプ大統領の凄いところは、”80兆の内のたった1.6兆の出資の部分で発生する90%の利益”をポストして「勝ちました!」と演出したところです。
「われわれは日本との大規模なディールを完了した。おそらく史上最大規模のディールだ。日本は、私の指示に基づき、米国に5500億ドル(約80兆6000億円)を投資し、利益の90%を米国が受け取る。日本は米国に対し15%の相互関税を支払う」
これウソは言ってないですからね。下手な説明をすると「日本から78.4兆円も借金する上に関税も25→15%にしたのかよ!」とアメリカ国民から言われちゃいます。
当初トランプ大統領は「関税は25%だ!」と強気に言っていました。そこから日本との交渉が始まり、日本は「関税より投資だ」という姿勢を貫いてきました。その結果、関税は25→15%になりました。
この交渉結果をトランプ大統領が「関税を25→15%に下げることで合意しました。」と言ってしまうと国民からは「おいおい交渉で譲歩したのかよ!」と思われてしまうかもしれないですからね。
強いアメリカを示す立場で当選したわけですからこれでは印象が悪くなってしまいます。なので勝った部分だけを説明するわけです。
なぜこのような投資をするのか
この「80兆円投資」の目的は日本政府が米国との経済安全保障協力の一環として用意する枠組みの総額であり、もちろんすべてが「日本の税金による出資」ではないです。
主な目的は、米国の関税措置(25%追加関税)を回避するためであり、日本の対米輸出産業を守るための「実利的な取引」です。
守られた利益(日本側主張)
- 関税引き下げの結果、日本が回避できた損失は10兆円規模(赤沢経財相の発言)
- 米国が導入予定だった25%の追加関税を、15%に引き下げ
- 自動車(現在2.5%)は、仮に課されても追加は12.5%に留まる
- 半導体や医薬品などは他国に比べて不利な扱いを受けないという保証も獲得
日米合意は、「経済安全保障上重要な9分野」において、日本企業が米国内で活動しやすくなる環境を整えることを目指しています。
半導体、医薬品、鉄鋼、造船、重要鉱物、航空、エネルギー、自動車、AI/量子など
この分野で米国内にサプライチェーン(原材料の調達から、製造、物流、販売を経て、消費者の手元に製品が届くまでの一連の流れ)を築けば、中国依存のリスクを回避できるうえ、将来の米国市場シェアも確保しやすくなります。
日本がアメリカの要求を受け入れた箇所
もちろん、日本がアメリカの要求を受け入れた点もあります。では最後に箇所について見ていきましょう。
- 日本出資によるプロジェクトの利益が1:9で日本不利(今回話題になった80兆円の内の1.6兆円の出資部分です)
- 米国農産品・航空機・LNG(液化天然ガス)等の購入拡大
- 米国製自動車の追加試験免除などの規制緩和
- 下がったとはいえ関税15%
交渉というのは、どちらか一方が得をするものではなく、WIN-WIN(相互利益)を目指すものです。日本にとって良かった部分、アメリカにとって良かった部分をみることが大切ですね。
ですが、どうしても身内には厳しくなるので「日本が80兆円も投資して、それで得た利益の90%をアメリカが得るとんでもない契約だ!」となるわけです。
冷静に考えたらそんなわけないじゃないですかって話しです。
ただ、自民党は嫌われているので何をやっても「全てが絶対にダメに決まってる!」と思う人もいるかもしれません。なので今回のような「とんでもない契約だ!」という発想になるのでしょう。
ですが「誰が言ったかではなく何を言ったかで判断しましょう」という言葉があるように「どの政党かではなく、どういう内容だったか」に注目するようにしましょう。
なぜなら情報は正しく得ないと自分自身が損してしまう可能性があるからです。
最後にちょっと余談
今回の合意の翌日、日経平均株価は爆上がりしました。これは世界の投資家が日本の交渉結果を評価したということに他なりません。
私も少ないながら株式投資をしているので増えたお金を見てテンションが上がるくらいには喜びました。
逆に言うと、投資をしていない人には実感がないかもしれません。
よく「投資をすると、世の中の動きがわかるようになる」と言われますが、今回はまさにそれを体感しました。
何が言いたいかというと、今日本政府がやっている事って投資をしていないと実益を感じにくい部分も多いんです。
だって減税するわけでもないし、手取りもそう簡単に増えない。(ちなみに私は「減税しない方がいい」と思ってる派ですけど、この話はまた別の機会に)
しかし日経平均は上がり続けているので株式投資をしている人のお金は増えています。NISAをやっている人も今回の件で恩恵を受けたはずです。
今の政府に不満があるのは分かります。でも、一方で成果を出しているのも事実です。
こう言うと「別の政党だったら、もっと上手くやってたはずだ!」と言う人もいるでしょう。でもそれを言うなら「別の政党ならもっと悪い結果になっていたかもしれない」と言わなければフェアじゃありません。
特にアメリカのように、軍事面で日本が頼らざるを得ない相手との交渉は難易度が高いです。
自分の立場に置き換えてみてください。取引先との交渉、上司との交渉、お客様との交渉、立場が上の人と交渉するのはとても難しいわけです。
その立場の中で、「関税より投資」という真逆の主張をしながら、最終的に関税を下げさせて、なおかつ投資内容も日本にとって悪くない形でまとめました。
これは素直に「けっこう頑張ったな」と言える内容だと思います。
<ソース元>
・日本産経新聞:対米投資80兆円、赤沢亮正経財相「出資は1〜2%」
・日本産経新聞:日経平均株価続伸、終値は655円高の4万1826円
・内閣官房(米国の関税措置に関する日米協議: 日米間の合意(概要))