試験に必要な歴史上の人物は名前は覚えにくく忘れやすいのに、自分の好きなアイドルグループ、アニメ、ゲームのキャラクターやアイテムの名前は簡単に覚えられる、そういった経験はありませんか?
一体なぜ興味あることはすぐに覚えられ、忘れないのでしょうか?
記憶のメカニズム
人間の記憶には
- レベル1…数秒で消えてしまう「瞬時記憶」
- レベル2…しばらくすると忘れる「短期記憶」
- レベル3…ほぼ永久に保存される「長期記憶」
という、時間に応じた3つの記憶レベルがあり、長期記憶を形成できれば忘れることなく覚えていることができます。
長期記憶を作るためには、何度も同じ学習をおこない反復刺激を繰り返す、そうすることによって脳の神経細胞と神経細胞との接合部である、情報が伝達される経路「シナプス」の結びつきが強くなります。
つまり長期記憶を作るには、何度も反復学習しシナプス結合を強くする必要があります。
しかし、私達は興味があることを覚えるときには繰り返すことなく簡単に覚えておく事ができます。これは何故なのか?
興味があることを覚えるようとすると脳の中でカテコールアミンなどの脳内物質が分泌されます。
これによって長期記憶が形成されやすくなるのです。
カテコールアミンとは
ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンという3つの神経物質の総称です。
このカテコールアミンは、人が何かに対して「興味がある」「好きだ」と感じるとシナプス間に分泌され、活性状態にさせる働きがあるといわれています。
そのためこの時に何かを覚えようとして入力された情報は、シナプスが活性化された状態で伝達されます。これにより何度も反復刺激することなくシナプスが簡単に強く連結するようになるのです。
それはつまり一度学習したことを長期記憶にしやすくする可能性があるということです。
そして興味がある物を覚える時には、このカテコールアミン以外にも、同じ働きをするグルタミン酸などの神経伝達物質も分泌されるといわれています。
例えばあなたが雑誌を開いて好きなアイドルグループの写真を見ていたしましょう。
自分が大好きなアイドルグループの写真を見ているという時点で、脳内ではグルタミン酸が分泌されシナプスが活性化され、情報を伝達するという点で脳は最高の状態になっています。
この時、写真のとなりに書いてあったこのアイドルの生年月日や血液型、趣味などの情報を目にすると、これらの情報が活性化されたシナプスを通じて伝達されることで、シナプスが強く結びつき、結果としてあなたはこの情報をすぐに覚えてしまうのです。
これに対してあなたが興味のないものを見ている時にはカテコールアミンやグルタミン酸は分泌されていないため、シナプスは活性化されていません。
たとえば学校や資格の試験を解くために必要な知識など、自分にとって興味が無いものを覚えるときには、何度も繰り返し学習することでシナプスに刺激を与えなければならないのです。
ではここからが本題ですが、同じ反復学習をするにしても少しでも効率の良い方法はないのでしょうか?
日本大学医学部の教授によると、反復学習のときにはなるべくたくさんの量を学習し、それを繰り返すことが効果的であるとのことです。
長期記憶を作る魔法の記憶法1:沢山の量を反復学習する「大量反復記憶法」
例えばあなたが10日間で英単語100個を覚えなければならないとしましょう。
- パターンA「1日10個ずつ10日間で単語を覚える方法」
- パターンB「1日100個ずつ10日間で繰り返し覚える方法」
あなたはどちらの方法をとりますか?
Bの方法は1日に覚える量が多すぎるため、うろ覚えにしかならないように感じます。
であれば、「1日10個ずつ10日間続ける」Aの方法をとるのではないでしょうか?
しかしなんと、Bの方法を取ったほうが効率よく記憶できるというのです。それは一体なぜなのか?
これは脳の神経細胞に同じ刺激が何度も与えられ、シナプスの結合が強く起こる現象だからです。
つまり沢山の量をなんども反復したほうが強い記憶を形成できるのです。
このことからたくさんの量を反復する学習は長期記憶を形成するために有効といえます。
とはいうものの、興味がないものを覚えるには何度も反復するしかないのかという問題を解決できていません。
興味があるものを覚えるときのように、もっと簡単に覚える方法…それは
「興味がある物については既に強固な神経ネットワークが形成されている」
これと関連付けることで新しい情報も覚えやすくなる、というものです。
長期記憶を作る魔法の記憶法2:興味があるものと結びつける「関連記憶法」
例えばあなたがプロレスファンだったとしたなら、興味がないものを覚えるときにはプロレスラーと結びつけると覚えやすくなります。
仮に日本の歴代首相を例に取ると、
初代:伊藤博文
二代目:黒田清隆
三代目:山県有朋
これらを覚える場合、例えば
1番強いアントニオ猪木の好物は伊藤ハム
2番目に強い長州力は日焼けで真っ黒田
3番目の藤波辰爾は山が好き
このように、あなたが好きなものと歴代の首相の名前を多少強引にでも結びつけると覚えやすくなるのです。
これは一体なぜなのか?
先程も述べたように、自分が興味あるものについてはカテコールアミンやグルタミン酸によってシナプスが強く結びついている、つまり既に脳内では強固な神経ネットワークが構築されています。
興味がない情報をこの強固な神経ネットワークと結びつけて記憶することは、もともとのネットワークの土台を拡大することになるので記憶をしやすくなるというわけです。
またこの方法で記憶しておけば、思い出せない場合でも土台の神経ネットワークの記憶さえ思い浮かべればそれがきっかけとなって、芋づる式に新しい情報も思い出せるという効果があります。
さらに効果的な記憶法について、記憶の達人、藤本憲幸氏からヒントを得た方法を紹介します。
藤本氏は1977年香港国際記憶コンテストで優勝の経歴を持っています。その際には80個の棚に入れた80個の品物をほんの一瞬で覚え、出場者の中でただ一人、どこの棚に何が入っているのかを言い当てました。
彼が用いた記憶法とは一体どのようなものだったのでしょうか?
それは脳のある特性を利用した驚くべき記憶法でした。
長期記憶を作る魔法の記憶法3:「場所イメージ記憶法」
例えば「ボール」「バラ」「医者」「タイヤ」「新聞紙」などのようにまったく関連性のないものをたった数秒間で順番に何個も覚えなければならない時、まず藤本氏は普段から自分がよく知っている場所を映像で思い浮かべ、その場所の特定の部分に記憶すべき項目を配置していくという方法をとります。
例えば、自分の部屋の様子をソファーに座っている自分を中心にして、右側に思い浮かべてみます。
もともと部屋の中にあるものが、ゴミ、電機スタンド、机、テレビ、パソコンだとしたら、
「ゴミ箱にボールがたくさん詰まってる」「電気スタンドにバラが刺さっている」「机に医者が座っている」「テレビにタイヤが乗っている」「パソコンの上に新聞紙が重ねてある」
というように、いつも自分がいてよく知っている部屋の情景と記憶するものとを結びつけたイメージ映像を思い浮かべ、それを覚えるのです。
果たしてこの方法は記憶の達人ではない私達にも効果があるのでしょうか?
そこで藤本氏の監修のもとある実験がおこなわれました。
まず、被験者をAとBの2つのグループに分け、同じ日本の輸入品に関するデータをそれぞれ別の方法で覚えてもらいます。
その際、Aグループには自分なりの覚え方で覚えてもらい、Bグループには藤本氏に自分の部屋に当てはめて覚える記憶を指導し、この方法で覚えてもらいました。
その結果、先に覚えることができたのは、自分なりの方法で記憶したAグループの方でした。藤本氏の記憶法をおこなったBグループは記憶するのに時間がかかりました。しかし、1週間後、データを覚えているか確認するためのテストをしたところ、成績が良かったのはBグループの方だったのです。
記憶することに時間はかかりましたが、後々まで長期記憶として残っていたのは記憶の達人の方法でした。
つまり、この記憶は誰にでも有効なのです。
この記憶法にはいったいどんな秘密が隠されているのでしょうか。
このことについて脳の神経細胞を研究する博士が分析をおこなったところ、この記憶法は脳の海馬体にある「場所ニューロン」が持つ特性をうまく利用している事がわかりました。
場所ニューロン
「場所ニューロン」。これは1972年に発見された脳の記憶をつかさどる器官で、海馬に存在し、場所を学習する際特に敏感に活動するニューロンのことです。サルやラットでは既に発見されており、人間にも存在している可能性が高いと言われています。
例えばラットをある箱の中に入れます。
ラットはこの箱という場所を視覚、聴覚、嗅覚、触覚などあらゆる感覚を総動員して学習し、記憶します。
このとき、ラットの脳内のほとんどすべてのニューロンが働いているのですが、特に活性が高まり、この場所を記憶するのに大きな役割を果たしているのが「場所ニューロン」なのです。
そして、博士の研究によれば、実はこの場所ニューロンにはただ単に場所そのものを記憶するだけではなく、その場所で起きた出来事や関連する情報までもたった一度も刺激で長期記憶として保存させる働きがあるというのです。
一体、なぜこのようなことが可能になるのでしょうか。
場所ニューロンが活性化すると、その刺激は脳内に強く伝達され、数多くの神経細胞が活性化すると言われています。
興味を持ったことを覚えようとした時に、カテコールアミンやグルタミン酸が分泌されて記憶しやすくなりますが、それと同じ効果が得られるのです。
では、なぜ場所ニューロンには、たった一度の刺激で長期記憶を形成できる力が備わっているのでしょうか。
それは、長期記憶を形成しやすくするということが動物として本能的に必要だった可能性があるからです。
博士によれば、危険のない安全な居場所や餌の隠し場所を覚えるなどの場所の記憶は元来動物として非常に大切だったため、本能的に他の記憶よりも優先され、より長期記憶としてインプットされやすくなっている可能性があるとのことです。
つまり場所ニューロンとは、動物の本能的な記憶を司る脳細胞であり、ここで処理される場所に関する情報は脳内で重要な記憶だと判断されるということす。
このことから、場所ニューロンを使って記憶の神経ネットワークを築き、これに絡めて新しい情報を記憶すれば、それが脳内で重要な記憶だと判断され、より長期記憶としてインプットされやすくなるといえるのです。
では、この場所ニューロンはどうすれば活性化できるのでしょうか?
それは、場所ニューロンによって記憶が形成された場所に再び行けば良いのです。
例えば、あなたにも次のような経験はないでしょうか。
以前、一度だけ来たことはあるが、ほとんど存在さえを忘れかけていた店にたまたま入った。
その瞬間に記憶が一気に蘇り、かつてその店で会った人や、その人と話していた内容、そして、飲んだ飲み物の味などを、非常に鮮明な映像と共に再び思い出す。
この現象は以前記憶した場所に再び訪れることで、あらゆる感覚情報から「ここは以前来た場所である」と判断され、その結果、場所ニューロンの働きが再び活発になり、この場所に関連した様々な情報が記憶から一気に蘇るのです。
さらに場所ニューロンの特性として例え実際にその場所に行かなくても、その場所を想像すれば、再び、活性化するということが挙げられます。
つまり、藤本氏が自分の部屋という見慣れた場所に結びつけることにより、瞬時に多くの情報を記憶できていたのは、場所を意識し、想像することによって場所ニューロンが再び活性化することを利用した結果であると考えられます。
たとえはじめは覚えにくいように思われても、何度か場所を意識して反復することによって場所ニューロンは活性化し、非常に忘れにくい長期記憶を形成します。
先程の実験でデータを場所と結びつけて記憶した被験者が覚えることには時間がかかったものの、その後のどれだけ覚えていたかを確かめるテスト結果が良かったのはこのためであると考えられます。
それでは、ここで記憶の達人藤本氏の監修のもと、学校の試験に必要な知識など、興味が持ちにくいものを覚えるための魔法の記憶方を実際にどのように用いれば良いかをお伝えします。
魔法の記憶実践マニュアル
藤本氏によると、まず覚える内容のジャンル別に記憶を使い分けることが効果的とのことです。
ジャンル1:特に順序が関係ない場合
例えば夏目漱石が書いた小説のタイトルを5作品を記憶する場合。
「坊っちゃん」「草枕」「三四郎」「こころ」「吾輩は猫である」
この5作品を覚えてみてください。
それでは次の言葉を2、3度の頭で繰り返した後、もう一度先程の5作品を覚えてください。
「ボ、ク、サ、コ、ワ」
「ボクサー怖い」
ただ、タイトルそのものを覚えるよりも格段に覚えやすくなったのではないでしょうか?
これは頭字法という記憶法で、それぞれの単語の先頭の字を結びつけて、何かの言葉にして覚えるというものです。後で思い出すときにもこの「ボクサコワ」さえ思い出せれば、作品のタイトルまでも思い出しやすくなるというものです。
この方法は新しい情報である作品のタイトルを、「ボクサー、怖い」という普通の言葉、要するにすでに強固な神経ネットワークが出来上がっている言葉と結びつけることによって記録しやすくしているのです。
ジャンル2:順序が関係する場合
次の問題の答えを覚えてください。
銀の産出国ベスト4、
1位:メキシコ、2位:ペルー、3位:アメリカ、4位:カナダ
では続いて次のような方法で覚えてください。
まず、メキシコはメキシコハット。ペルーはナスカの地上絵。アメリカは合衆国大統領。カナダはジンジャーエール。
このように頭の中でそれぞれを映像に置き換えます。
次に、メキシコハットを被る、ナスカの地上絵の上で、アメリカ大統領が、ジンジャエールを飲んでいる。
というそれぞれをつなげたイメージ映像を思い浮かべてください。
ただ、単に字面を追って覚えるより遥かに記憶しやすくなったのではないでしょうか。
これは連想法という記憶法で、まず覚えるべき国名などの情報に自分が真っ先に頭に浮かんだイメージするものを当てはめます。
そして、このイメージを順位に沿って自分なりに映像化します。
この方法はそもそも真っ先にイメージするものが既に強固な神経ネットワークが出来上がっているものなので、新しい情報である国の順位をこれに結びつけることで覚えやすくなるとともに、情報を映像化することで具体的なものになるため、記憶しやすくなるのです。
ジャンル3:順序立てて覚える内容が多い場合
例えば江戸幕府の将軍のうち、初代から8代目までを順番に覚えてください。
初代:家康 2代目:秀忠 3代目:家光 4代目:家綱 5代目:綱吉 6代目:家宣 7代目:家継 8代目:吉宗
覚えることができましたか?
それでは、あなたが今住んでいる家の玄関から部屋に至るまでの道筋を思い浮かべながら、順番に将軍たちの名前を当てはめてみましょう。
例えば、このような映像です。
表札の文字は家康。犬小屋には飼い犬の秀忠の名前。ドアノブで光るのは家光。玄関に座るのは家綱。廊下を歩くのは綱吉。階段を降りるのは家宣。ドアを開けてくれるのは家継。そして自分の部屋には吉宗がいる。
このように場所イメージ記憶法を使い記憶する内容のイメージと場所を結びつけて覚えれば、情報を順序立てて覚えなければならない場合でも有効です。
これは自分がよく通ったり見たりする場所に記憶する内容のイメージの順番に当てはめることで、場所ニューロンを直接刺激することになり、たとえすぐに頭に入れなくても、毎日家に帰るたびに自然と復習もできるのです。
ただ、藤本氏によれば、そもそもこれらの記憶が有効に使えるジャンルは限られているため、記憶しなければいけない全ての機会に必ずしも使えるものではありません。
ただ、どうしても覚えられないポイントがある時、これら魔法の記憶法を使うことによって、効率的に効果的に記憶し、情報を呼び覚ますのに役立てられれば幸いです。
この記事は特命リサーチ200Xという番組の「試験に役立つ魔法の記憶方法」という回をアーカイブしようと思い作成しました。